1/09/2013

新年にあたって。

宮城県に七ヶ浜という町があります。この町に住む人から聞いた話です。

七ヶ浜は、風光明媚で名高い松島と仙台塩釜港との間にある、太平洋に面した町です。七ヶ浜という名からも想像できるとおり、東北大震災以前は、漁業とマリンスポーツが売り物でした。

2011年3月11日地震と大津波によって、この町の海岸地区は壊滅的に被害を受け、犠牲者も出ました。多くの人が、今も仮設生活を続けています。

この町で、暮れが迫った去年の12月、東北大学の海洋生態学の研究者を講師とした講演会がありました。町主催のこの講演会は、放射能が心配される中、海産物を食べても大丈夫か、どんな事に注意すればいいのか、といったテーマで開かれました。津波の被害で船も港も損害を受け、本格的な商業漁業に向けては、これから復旧に向かうという状態の町ですが、それでも、自分たちの食べる分くらいは、釣って食べることもあります。そうした、地元で獲れた海産物が食卓に並ぶことも少なくないこの町で、この講演会は、台所を預かる主婦を対象にしていたようでした。が、講演会には、かなりの数の町の漁業関係者も聴きに来ました。その多くは、東北大地震・津波の被害者でもあります。

七ヶ浜沖では、2011年に一度ほど捕獲検査の結果が発表されたようですが、公式な情報がほどんどありませんでした。その際、七ヶ浜沖でも、ある程度放射汚染された魚が捕獲されたことは知られています。これから復興に向けて安心して漁業が営めるのか。釣った魚を子供に食べさせても大丈夫なのか。震災以来、なにが確かな情報なのか判断するが難しい中、噂や憶測が飛び交い不安に思ってきた人も多かったのでないかとおもいます。町主催で、東北大学の教授がデータを持ってきてくれるらしいということで、確かな情報を求めて参加されたのではないでしょうか。

講演会の内容は、聴衆者にとっては、衝撃的であったようです。ネットなどを駆使して、公開されている情報をつぶさに調べて見当がついていたというのは、この田舎町では少数派でしょう。東北大の教授は、仙台湾も福島沖と、そう変わらない程度に汚染されていると報告しました。放射能汚染は、一年半以上たち減る方向にあるのではいう希望に反し、実は高まっているということを、震災以来の仙台湾で調査続けたデータを示しながら話されました。現在、セシウムは海底の泥土20センチほど浸透しており、この汚染はこれから20-30年は減少しないだろうということ。魚の汚染に関していえば、個体差が激しく、同じスポットで同時に捕獲された魚でも、全く汚染されていないものあれば、規制値を超えて汚染されたものもある。個体別に当たり外れがある中、一匹でも高汚染のものが検出されれば、それだけで市場価値が下がり、商売にならなくなる。七ヶ浜沖は、カレイやアイナメなど海底近くに生息する魚がよく獲れることで、知られているのです。美味で名高く高級魚とされるナメタガレイなどが駄目となれば、この町の漁業の復興はどうなるのか。

それに対し、教授は、海面近いところではかなり汚染も低くなっており、のりやわかめなどの海面近くでの養殖などなら大丈夫であろうと説明されました。ただし、台風などで海があれ海底の泥土がかき回されると、放射性物質が海水に舞い海藻に着いてしまうので注意が必要ということ。いずれにしろ、魚を食べるなら、海面近くで生息するもの方が安全だということ。

この話を聴いた漁業関係者の人は、沈んだ顔をしていたそうです。福島から北上し、石巻、牡鹿半島に続く広大な仙台湾一帯で、岸沿部を中心に汚染されているという事実。東電福島第一原子力発電所から、100キロ北で大丈夫だろうと信じていたこの町の海が、すでに放射能にまみれているということ。ショックだったようです。それと同時に、聴衆者の中には、なぜこういうデータや情報が、これまで現場の漁業者に知らされなかったのか、憤りや疑問を感じる人もあるようでした。

そして、これからどうするのか。こういう話は風評被害につながり魚が売れなくなるから、あまり大騒ぎすべきでないという意見もあれば、東電で賠償を求められないかという意見もある。沿岸・近海での捕獲業をやめるのか。のり養殖などに切り替えられるのか。職替えするのか。釣った魚を食べてもいいのか。だれか、補償してくれるのか。泣き寝入りするしかないのか。あまりにも、課題が多すぎます。いっそ、知らなかったことにして、震災前の日常を取り戻すことに精を出す選択をする人もいるかもしれません。2013年、まだ津波の爪あとも消えていない七ヶ浜で、どう生きていくのか。先は見えません。

津波は、大切に作り上げてきたこの町の過去を破壊しました。原発事故は、これから作り上げていこうとする未来を奪います。この町でも、原発事故が引き起こしたとてつもなく深刻な状態が、やっと、分かり始めてきたところなのかもしりません。おそらく、これから、放射汚染の被害の深刻さがあらゆる面から、分かってくると思います。陸地の汚染ばかりではありません。海洋の汚染もさらに深刻です。汚染の実態が周知されるようなったとき、日本がどう対応するのか。 それは、なおさず私自身がどう対応するのか、という問いです。 ひとりひとりが、どう考え行動するかで、日本の将来が左右されると思います。 ひとりじゃ何もできないし、どうにもならないとあきらめないで、出来ることをすればいいのだと思います。 がんばりましょう。 

2013年が、よいお年になりますように。