11/04/2012

米軍退役兵の補償にみる被曝のリスクの考え方(2)

時間が空きましたが、前回からの続きです。 ちょっと長いですので、言いたい事の要点だけ、まとめると、

a)米軍の被曝兵の補償制度によると、被曝のリスクは、甲状腺癌だけでない。さまざまな癌が、被曝要因による可能性があると、想定されている。

b)補償の対象となる退役兵のほとんどが、低線量の被曝しかしていないと思われる。福島原発事故で東北関東の汚染地で受けたと推定される被曝量とあまり変わらない。

これから考えても、米軍が、福島原発事故当時に日本に滞在していた米国国防省の関係者や一般米国人に対象に被曝推定量を公開しているには、それなりに危惧する理由があるんだろうと、思う。  

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で、ここから、今回の記事。

前回、第2次世界大戦時・冷戦中に、いわゆる「放射線リスク任務」(radiation-risk activity)に関わった米兵は、低線量被曝をした扱いになっていると書きました。米軍によれば、「放射線リスク任務」と着いた兵とは、次の人たちのことを指します。 (参照原文は、ここです
  
  • 194586日から19467月の間に広島・長崎の占領に加わった者。(因みに、日本で被曝者として認定されるのには、原爆投下後2週間以内に爆心地から2キロメートル以内の区域に立ち入った人だと思います。)
  • 第二次世界大戦中、日本で捕虜になった者。
  • 1945年から1962年にかけて、ネバダ州・太平洋で行われた大気核実験に関わった者。
  • 1974年以前に、アムチャッカ島(アラスカ)で行われたの地下核実験に関わったもの。11
  • 19922月以前に、ケンタッキー州、オハイオ州、テネシー州の気体拡散プラント     (高濃縮ウラン製造工場)に250日以上参加したもの。 
 これらの放射リスク任務についた退役兵で、放射が原因と推定される疾患が診断された者には、補償金や手当てを受ける事ができます。

(脱線しますが、ひとこと。 ただし、米国でも、退役兵に被曝による健康被害が認められるようになるまでは、時間がかかっています。数々の訴訟などをへて、被曝した兵士に対する補償が本格的に整ったのは、冷戦後以降のことです。補償の制度が整ったころまでには、広島・長崎の占領や戦後の大気実験に関わった退役兵やその配偶者で補償金を受け取る権利のある人たちの中には、すでに亡くなってしまった人も多かったはずです。また、補償制度自体がよく知られておらず、各当する生存者や遺族でも補償の請求をした人も、思ったより多くはないようです。意図的でないとしても、結果的には、被害者が、死に絶えるのを待ったような対応となったということでしょうか。)

さて、米軍は、のべ19.5万人の米兵が戦後に広島・長崎の占領に加わったと報告していいます。そのうち95パーセント以上は、19458月から1946年の7月までの占領期間中に1ミリシーベルト (0.1rem)未満の被曝を受けたと推定され、長崎の西山地域に頻繁に出入りした者だけが10ミリシーベルト(1rem)までの被曝を受けたと可能性があるとしています。 更に、のべ21万人の米兵が、1945 - 1962年に大気核実験に参加したが、彼らの平均累積被曝量は、6ミリシーベルト(0.6rem)であったとしています。また、1パーセント未満の大気実験参加兵のみが、年間にして50ミリシーベルト(5rem)以上の被曝を受けたと推測しています。米軍も、大気核実験をしていたころまでは、誰が何処にどれだけ過ごしたかについての詳しく個人レベルのデータを持っていたわけではありません。誰がどれだけ被曝したかのさえ正確に断定できない中、被曝との因果関係を証明することなど、ほとんど不可能です。米国政府は、科学的に個人レベルでは因果関係が証明できないと理由で、被曝の影響を否定すべきではないという見解で、1988年に成立し1990に施行された被曝補償法(The Radiation Exposure Compensation Act)では、上記の放射線リスク任務についた者で被曝が要因と推定される疾患があれば、被曝量のデータなしに、補償を認められます。 

現在、米国の被曝補償法で認められている推定疾患は、次の21種類です。(わたしの和訳が適切でないかもしれないので、原文の英名もつけておきます。間違っていたら、ツイッターでご指摘お願いします。)

1. 白血 (慢性リンパ球性白血病をのぞく)Leukemia (except chronic lymphocytic leukemia)
2. 甲状腺癌 Cancer of the thyroid
3. 乳癌  Breast
4. 頭癌 Pharynx 
5. 食道癌 Esophagus  
6. 胃癌 Stomach   
7.小腸癌 Small intestine
8. 臓癌 Pancreas
9. 胆管癌 Bile ducts
10. 嚢癌 Gall Bladder
11. 唾液腺癌 Salivary glands
12.尿路の癌(腎臓、腎盂、尿管 膀胱、尿道)Urinary tract (kidneys, renal pelvis, ureter, urinary bladder and urethra)
13. 骨肉腫 Bone
14. 脳腫瘍 Brain
15. 腸癌 Colon
16.
肺癌 Lung
17.卵巣癌 Ovary
18. リンパ腫(ホジキン病をのぞく)Lymphomas (except Hodgkin’s disease)
19. 多発性骨髄腫 Multiple myeloma
20. 臓癌(肝硬変、B型肝炎をのぞく)Primary Liver cancer (except if cirrhosis or hepatitis B is indicated)
21. 気管支肺胞癌 Bronchio-alveolar carcinoma

 被曝退役兵のNPOなどは、これでも認められている推定疾患が少なく過ぎると不服としているグループもあります。 そうだとしても、このリストをみて、考えさせれるのは、これらの疾患が、放射線が要因で起こりうる、起こるかもしれない、と米軍が認めているということです。米国が、政治的なプレッシャーだけで、放射線が要因になることがない病を、被曝による推定疾患と指定するとは思えません。 低線量被曝で心配しなければならないのは、放射性ヨウ素が要因で起こりやすくなることで、知られている甲状腺癌だけでは、ないということでしょう。

よく話題にのぼる甲状腺の疾患や白血病なども憂慮しなければならないのは もちろんですが、癌だけとってもあらゆる臓器について心配すべきだと、米国の補償制度は示唆している、という見方もできます。さらに、チェルノボリの被災地からのデータも、癌だけでなく、あらゆる疾患が増加したことを示唆していますし、広島・長崎でも原発ぶらぶら病などにみられるように、癌以外の健康被害があったことも知られています。 福島を中心とする東北関東の広域の低線量汚染地で、様々な健康障害が増えるのではないかと、本当に懸念しています。